校舎は生きた教材中央工学校の考える“実務教育”とは

南暁 茶の湯の文化を凝縮した小宇宙

心を学ぶ

南暁(なんぎょう)は、複数の茶室からなる茶寮の雅称です。大きく分けて以下の3つによって構成されています。

  • 小間(こま)
  • 広間(ひろま)
  • 立礼席(りゅうれいせき)

これら3つの茶室が茶庭や露地(ろじ)によって有機的につながっており、いうなれば「茶道の世界観を表したテーマ館」のようになっています。特に小間(こま)と呼ばれる小さな茶室『大庵(だいあん)』は、室町時代から安土桃山時代にかけての茶人として知られる千利休(せんのりきゅう 1522-1591)がかつて大阪城内に設計したとされる幻の茶室『深三畳台目(ふかさんじょうだいめ)』を復元したものであり、利休の目指した世界観を直接感じることができる貴重な空間となっています。

立礼席外観

立礼席より紅葉を眺む

広間より茶庭を望む

広間外観

露地門(枝折戸・しおりど)から内路地へ

中門(梅見門・ばいけんもん)と踏みわけ石

広間入り口から露地門を望む

小間の躙口から露地を眺む

揚簾戸(あげすど)から立礼席までを歩く

茶の湯の心は、単に美味しい茶を点ててもてなせば良いということにとどまりません。庭の作り、掛け軸、茶器、生け花、表具なども含めた建物や環境、季節・時間までも含めた全体でおもてなしの心を表現します。当然茶室も「ただ屋根があればいい」ということにはならず、亭主の思いを反映した設計・施工が求められます。
では、「思いを反映して設計する」とはどういうことなのでしょうか。一体どうすれば、施主の意向に沿った設計ができるようになれるのでしょうか。私たちは建築技術を中心とした「ものづくりの学校」として、この理(ことわり)を学生たちに説く際に、この南ヶ丘倶楽部にあるこれらの施設を存分に活用しています。

ものづくりの矜恃

南暁のいたるところで漂う気品は、造作のひとつひとつにちゃんと意味が込められていることを表しています。例えば、茶室「大庵」の入り口となる「躙口(にじりぐち)」は60~70㎝四方の小さな引き戸となっており、大人一人くぐるのがやっとというぐらいの狭い入り口となっていますが、これにもちゃんとした理由があります。

この狭い入り口から先は身分の上下もなく、分け隔てもない亭主と客が心を交わす特別な空間であり、争い事ははばかられるがゆえ、たとえ武士であっても刀を持って入ることは許されません。つまり、誰もが頭を下げないと入れないこの小さな入り口によって、謙虚な心をもって茶室に入るという亭主の理想を建築様式によって表しているのです。
躙口以外にも、窓の大きさや方角、壁の設(しつら)えから天井の高さ、畳の数、その並べ方に至るまで全てに意味が込められていると知った時、ものづくりを本気で標榜する学生たちの心に、新たな物の見方が芽生えます。それは現代ならば「デザイン」という言葉が当てはめられるのでしょうが、大事なのは「伝統をまとった造形美には意味がある」という事実。その「意味」とは、時に機能であったり、風情であったり、贅沢であったり、主張や遊びであったりもします。

小間「大庵」躙口より入る

掲題に沿って意匠を巡らすことはものづくりの本懐ともいえ、匠の技たる所以。悠久の時を経て今もなお遺る先達の遺産から「理念無き創造に叡智は宿らず」という厳かな事実を学びとる時、私たちは思わず背筋を正してしまいますが、これこそが中央工学校が実践し続ける「人間涵養教育」の目指す先のひとつでもあるのです。